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商標


「星」をめぐる暑いバトル


ビールが一番おいしい季節、サッポロビールとハイネケンの暑い戦いの経過をたどってみましょう。

事件の発端
ハイネケンの商標が登録されました。中央のやや上に「ホシ」が描かれています。その商標に対して、サッポロビールがクレームをつけました。
ビールで「ホシ」といえば、これは明治9年からサッポロが独占していたもの。したがって、ハイネケンの「ホシ」を含んだ商標は、サッポロの独占しているマークと類似するから無効である、という主張です。
たしかにサッポロビールには「ホシ」のすべてをサッポロビールが独占してよいのでしょうか。そんな争いです。

サッポロの主張。
サッポロビールは自社の「ホシ」については次のように強調しました。
  1. サッポロの商標は赤色の実線で輪郭を描いたホシである。
  2. そのため、サッポロのマークは「ホシ」「アカボシ」「スター」「レッドスター」などと呼ばれて親しまれている。
一方ハイネケンの「ホシ」に対しては次のような主張をしました。
  1. ハイネケンの「ホシ」はラベル上段の最も目立つ位置に、輪郭線で囲まれて描かれている。
  2. この「ホシ」の位置は、普通ではハウスマークを表示する中心的な位置である。
  3. 「ホシ」は、「TRADE」という文字と「MARK」という文字に挟まれて、その存在が強調してある。
  4. 「ホシ」は他の図とは異なって、太線の目立つ赤色を用いて描かれている。
  5. したがって、ハイネケン商標の中心の一つは「ホシ」のマークである。
このように、ハイネケン商標も「ホシ」と呼ばれる可能性があるのだから、サッポロの「ホシ」とは発音が共通している。そんな商標の登録は無効とされるべきである、と。
ハイネケンの反論
ハイネケンは次のように反論しました。
  1. ハイネケンの商標の中心は、緑色の縦長の楕円形と、その中央を横断するリボン状の横枠である。
  2. この外周の楕円形の中と、中央の横枠の中の白抜きの「HEINEKEN」の文字で人々は「ハイネケン」と発音するはず。
  3. たしかに「ホシ」は描いてある。しかしそれだけを見て、この商標から「ホシ」「スター」「レッドスター」などと発音する人がいるとは思えない。
裁判所の判断
両者の意見を聞いて裁判所は次のように判断しました。
  1. ハイネケンの商標にはいろいろなデザインが混在しているが、しかし全体にバランスよく配置されたラベルとして完成している。
  2. その中で「ホシ」は楕円形の輪郭とリボンの横枠の中に一体として融合して、ラベル全体の装飾としての印象を与えているに過ぎない。
  3. 「ホシ」のマークは一般に、「夜空に輝く星」といった美しいイメージや、「トップスター」といった優れたイメージを作りだすために使われる手法である。ハイネケンの場合も、そのような意味でデザインの中に組み込まれたものと考えられ、特に消費者の目を引く部分とはいえない。
  4. たしかに「ホシ」は「TRADE」の文字と「MARK」の文字に間に挟まれている。しかし、これは「ホシ」が登録商標である、と言っているのではなく、ラベル全体に関する商標登録の表示であると判断される。
  5. したがってこの商標からは「ハイネケン」とか「ハイネケン ラガービール」といった発音だけが生じる。ここから、「ホシ」「アカボシ」「スター」などの星に関係する発音が生じるとは考えられない。
このように、サッポロの「ホシ」と、ハイネケンの商標は似ているとは言えないから、無効にすることはできない。したがって、サッポロの負け!

周知商標について
サッポロは以上の主張のほかにも、サッポロの「ホシ」が周知だから、これと似ている商標は無効にすべき、とも主張していました。
この周知生の主張についても裁判所は認めませんでした。なぜなら、
  1. サッポロの「ホシ」が周知であるとしても、ハイネケンの商標は「ホシ」と呼ばれる可能性がないのだから、両者に共通点はなく、主張は認められない。
  2. サッポロの「ホシ」は明治9年以来、120年にわたって一貫して使われていたと主張している。しかし実際の取引では「サッポロビール」「アサヒビール」などといったメーカーの名前で取引されている。
    また種類については「生ビール」「ラガービール」「ライトビール」といって区別されている実情は、裁判所において顕著な事実(裁判官がよく知っている事実)である。
  3. サッポロは、その製品が「アカボシ」「レッドスター」などと呼ばれて取引されているというが、そんな事実は認められない。たとえそのように呼ばれているとしても、ハイネケンのビールがそのように呼ばれている証拠がないのだから、両者が似ているとは言えない。
  4. サッポロは日本のビール業界において20%のシェアを占めており、そのために膨大な広告費を使っていることが認められる。
    しかしハイネケンもまた日本における海外ブランドとしては第3位の位置を占めており、多額の宣伝費によって周知となっている。
    したがって、消費者が両者を間違えてしまう可能性はない。
こうしてサッポロの「ホシ」とハイネケンのラベルは共存することが認められたのでした。


仕事を終えてジョッキを傾けながら、「ホシ」ひとつに賭ける熾列な争いを思い出してみてください。(東京高裁平成7年(行ヶ)14号)

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