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不正競争防止法


フットボールシンボルマーク事件

http://www.chizaisoudan.com/article/15196476.html


事件の背景
  1. 原告は
    原告の一人、ナシヨナル・フットボール・リーグ・プロパテイーズ・インコーポレーテツド(NFLP)は米国の30のフットボールチームの名称とシンボルマーク(本件表示)を独占的に使用する権利、および第三者に許諾する権利を有する米国の法人です。
    原告の他の一人、ソニー企業は、NFLPからの許諾を受けて、日本国内の企業への再使用権の許諾、本件表示の使用方法、許諾した商品の品質の管理、宣伝方法などの管理、統制を行い、NFLPと再使用権者との中核的立場に立って商品化事業を推進していました。
    再使用権を許諾された19社は各々、被服、文房具、装飾品などの専業者で、自社の製品に本件表示を付して販売をしていました。
    NFLPからの使用許諾の状況はマスコミにたびたび取り上げられ、アメフトの人気に伴って爆発的な売り上げを上げていました。
    その結果本件表示は、遅くとも昭和50年初め頃以降わが国において単なるアメフトチームを示すマークの域を脱して、ソニー企業を軸とする再使用権者のグループの商品表示又は営業表示として広く認識されるに至っていました。

  2. 被告は
    被告の丸竹商事は、昭和50年11月中旬頃から昭和51年10月までの間に本件ロッカー(丸竹ロッカー)を販売しました。
    丸竹ロッカーは、本件表示のうちの7チームのマークをその全面に千鳥状に配列印刷したビニール製シートをもって組立棚枠の正面及び両側面を被覆した箱状の組立ロツカーです。

  3. 訴え
    丸竹は昭和50年11月上旬に600本の丸竹ロッカーをダイエーに納入しました。
    それを知ったソニー企業は丸竹に販売中止の警告書を送りましたが、丸竹はこれに応じようとしないばかりか、警告書を受領した後に丸竹ロッカーの意匠出願を行い、登録を受けてしまいました。
    そこでソニー企業らは、丸竹ロッカーの販売行為によって、再使用権者に対する管理統制を害されるだけでなく、商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれがある、と主張して訴え、地裁、高裁でその主張が認められました。
    そこで丸竹が上告したものです。

争点の1
争点の一つは、丸竹ロッカーが本件表示と類似するか、という問題です。
なぜそんな問題が起きるか、といえば、再許諾したのは1社ごとに1図形のヘルメットであり、一方、丸竹ロッカーは多数のヘルメットを千鳥状に配置したものだからです。もう一度、比較した図を示します。

再使用許諾者は、1商品ごとに1図形を使用しているにすぎない 丸竹ロッカーは多数の表示を千鳥状に配置している(意匠登録第490297)

高裁の「両者は類似する」と判断に対して丸竹は最高裁への上告理由で次のように反論しています。

在米のフットボールチームにおいてすら、1チーム1種で使用しているものであつて、7種を同時併列状に使用していたわけではない。
日本の19社も、7種を同時併列的に使用していたわけではなく、19社が1商品1種の割合で使用していた。
たまたまその表示と類似のものが丸竹ロツカーの全面柄模様の中に存在するとの一事を捉えて、丸竹ロツカーの全面柄模様と19社が1品1種の割合で使用している表示とを以て、不正競争防止法の「類似の表示」に当るとした高裁の断定は、比較論の基礎を誤つた暴論である。
この点において原判決は違法として速かに取消さるべきである。

もっともな主張に聞こえますが、その反論に対して最高裁は次のように判断しました。

たしかに30種ある本件表示の各マークは、それぞれ図柄及びチームの名称を異にするものである。
しかしいずれもアメリカンフットボールのヘルメツトをかたどった共通の図形からなるものである。
そのため、取引者又は需要者が、丸竹ロツカーの表示を全体的にみて、ロッカーの模様は本件表示の個々のマークと外観及び観念において同一又は類似のものを多数個使用するものと感得するであろうことが明らかである。
よって丸竹ロッカーの表示の使用は、本件表示と同一又は類似のものを使用するものといわなければならない。


争点の2

争点の他の一つは、ソニー企業が当時の不正競争防止法1条1項1号、2号の「他人」に当たるか、という問題です。
というのは、原告のソニー企業は自社でなにひとつ販売していないからです。
その点を強調して丸竹は次のように主張しました。


仮りに丸竹ロツカーの表示が、19社の販売する先行商品との間に、商品の混同ないし営業主体の混同を生ずるとしても、その差止請求や損害賠償請求についての原告適格は、19社である。
表示の使用についての独占権を有しないソニー企業らではない。
だから高裁の判決が、ソニー企業らに原告適格があるとしたのは、誤りであつて、この点においても原判決は取消されなければならない。

その反論ももっともに聞こえます。
しかし最高裁は次のように判断しました。

ソニー企業らは、丸竹の不正競争防止法に該当する行為により、再使用権者に対する管理統制、本件表示による商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれがある者である。
それなら不正競争防止法の「営業上の利益を害されるおそれがある者」に該当するものというべきであって、その規定に基づいて差止請求及び損害賠償請求をすることのできる地位にあるものといわなければならない。


争点の3

前記したように丸竹は7種類のヘルメットの図形を千鳥状に配置したロッカーの意匠権者でした。
だから丸竹ロッカーは意匠権者が自己の意匠権を実施した物品である、と言えます。

ただしこの意匠権には問題がありました。
ソニー企業らに警告を受けた日(昭和50年11月29日)よりも4か月後である昭和51年4月1日に出願したものだったからです。
高裁の判断ではその点を突かれて、形式的には登録意匠の実施にあたるとしても「権利の濫用である」と指摘されました。
そこで丸竹は最高裁の段階で次のように反論しました。

高裁の判決は、不正競争品であるとの理由で警告を受けた者は、その理由がいい加減な警告であつても、ただ警告を受けたというだけで、その警告を受けた物品について意匠の登録を受けることはできない、というものである。
さらに意匠権者は権利者であるのに、不正競争品であると警告を受けた以上は、その商品は製造販売することは許されない、ということになってしまう。
この理論は、憲法の保証する意匠法に基づく国民の「意匠登録を受ける権利」を、一私人の一片の警告、しかもそれは未だ裁判所の判決によつて確認されたものでもなく、不正競争品であるかどうか分からない段階なのに、それによつて国民の「意匠登録を受ける権利」を奪殺してしまうという判断であって到底容認し得ないところである。

ただ一片の警告を受けたら、その理由がいい加減であっても、あるいは裁判所の判決も出ていなくとも、意匠登録を受けられず、製造販売もできないのか、それでは憲法で保障する権利を奪殺することになるじゃないか、というのですね。
その点について最高裁は次のように判断しました。

ソニー企業らは、昭和50年11月末頃、丸竹に対し、丸竹ロッカーの販売を取り止めるよう要求した。
丸竹は、その警告及び要求を無視するとともに、当然予想されるソニー企業らの差止請求等を免れるため、その対抗措置として、(警告から4か月後の)昭和51年4月1日に丸竹ロッカーに係る意匠について意匠登録出願をし、昭和53年9月に意匠登録を受けた、というのである。
その事実関係によれば、丸竹の丸竹ロッカーの販売行為は、形式的には登録意匠の実施にあたるとしても、権利の濫用にあたるものと解されるから、不正競争防止法6条所定の意匠法による権利の行使には該当しないものというべきである。

その他の論点もありましたが、すべて採用されず、「高裁の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」という結論でした。

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