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不正競争防止法


良品計画ユニットシェルフ事件

簡素さは「商品等表示」か
(平成28年(ワ)第25472号 不正競争行為差止請求事件)

訴えた良品計画 訴えられたカインズ
訴えた良品計画 訴えられたカインズ
(東京地裁平成29年8月31日判決より引用)


[シンプルな工業製品は「商品等表示」か?]
奥行や幅の違う複数のパーツを組み合わせて使う棚を、ユニットシェルフといいます。
無印良品でおなじみ株式会社良品計画が、株式会社カインズのユニットシェルフの形状が自社のユニットシェルフと似ているとして、不競法に基づき販売差止めを求める訴訟が起こりました。
他社による模倣をやめさせるためには、ユニットシェルフのデザインが不競法にいう「商品等表示」に該当することが前提となります。
写真を見る限りでは、装飾がなくシンプルな工業製品という印象を受けます。
果たして「商品等表示」となりえるのでしょうか。

[事件の経緯]
株式会社良品計画は、平成9年1月頃からユニットシェルフを「無印良品」の店舗において販売していました。
一方、株式会社カインズは、平成25年7月頃からユニットシェルフを「カインズホーム」の店舗において販売していました。
良品計画は、製品デザインが自社と類似していると判断し、不競法に基づきカインズのユニットシェルフの販売差止めを求めて、地裁に訴えました。

[ユニットシェルフの形状と良品計画の主張]
良品計画の請求が認められるためには、ユニットシェルフの形状が不競法上の「商品等表示」に該当しなければなりません。
形状が商品等表示に該当するためには、
・商品の形態が顕著な特徴を有すること、
・需要者間にその形態が特定の事業者の出所を表示するものとして周知なこと、
の2つの条件を満たす必要があります。

良品計画は、「無印良品」のユニットシェルフの特徴を、以下のように分けました。
・ 側面の帆立は,地面から垂直に伸びた2つの支柱と,その支柱の間に地面と平行に設けられた支柱よりも短い横桟からなる
・ 帆立の支柱は,所定の直径の細い棒材を,間隙を備えて2本束ねた形となっている。
・ 帆立の間には,横桟より少ない数の平滑な棚板が配置されている(棚板の配置されていない横桟が存在する。
C X字状に交差するクロスバーが,帆立の支柱のうち背側に位置する2つの支柱の間に掛け渡されている。
D 帆立の横桟及びクロスバーは所定の直径の細い棒材からなる。
E 帆立,クロスバー及び棚板のみで構成された骨組み様の外観(スケルトン様の外観)を有している。


上記@〜Eにより、良品計画ユニットシェルフは顕著な特徴のデザインとなっていることを主張しました。
良品計画は,組立て式の棚であるユニットシェルフとして考え得る無数のデザインの中から骨子に絞ったシンプルな形状というコンセプトを採用し,
上記@〜Eを採用して需要者に軽やかな,すっきりとした,シャープな視覚的印象を与え,
複数の棚を並べて設置すると支柱の存在感が希薄になって棚が連続的,一体的に認識されるものとなっている点で特徴的である。

上記@〜Eは,組立て式の棚の技術的機能に由来する不可避的な構成ではなく,
少なくとも良品計画ユニットシェルフを販売開始した時点において,
同種商品と比較して特徴的なデザインであった。

また、このデザインは無印良品のものとして、需要者の間で周知であることも証明しました。
無印良品のユニットシェルフは,販売開始の3年後には年間約9万8000台を販売して売上高が約12億0800万円となり,平成15年までの累計売上高が約43億9200万円に及ぶ。
良品計画はユニットシェルフの写真が掲載されたカタログを年間約300万部配布し,全国240を超える無印良品の店舗において展示販売した。
ユニットシェルフは家具,インテリア又はライフスタイルを取り扱う雑誌の記事やウェブサイトにおいて採り上げられた。
平成22年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。
これらのことから,ユニットシェルフのデザインは出所(無印良品)を表示するものとして周知である。


[カインズの反論]
カインズはまず、@〜Eを有する無印良品のユニットシェルフは、顕著な特徴のデザインではないと反論しました。
再度、構成要素の図面を掲載してみます。

カインズの反論

カインズの反論は、
上記@につき,支柱として2本の棒材を用い,その間に横桟を設けることは,強度を維持するために不可避的な形態である。
また,他社の同種商品において広く採用されているありふれた形態である。
上記Aにつき,間隙を備えて棒材を2本束ねることは棚板で2つの商品を横に連結するために不可避的な形態であり,また,ありふれた形態である。
上記Bは,棚板はどの横桟にも取り付け可能であるし,棚板の数も適宜に追加等ができるもので,このような流動的な構造をもって形態的な特徴などということはできない。
上記Cは,安定性を強化する機能を得るために不可避的に採用せざるを得ない形態であり,また同種製品も多数見られるありふれた形態である。
上記Dにつき,棒材の直径を6mmとすることは設計事項にすぎず,一般的なものにすぎない。
上記Eは同種製品が存在し,ありふれた外観である。

次に、ユニットシェルフのデザインは無印良品のものとして、需要者に周知ではないと反論しました。
良品計画以外の事業者によってユニットシェルフのデザインを備えた商品が製造,販売されており,良品計画だけがその形態を長期間独占的に使用した事実はない。
良品計画がユニットシェルフの形態的特徴を強力に宣伝して周知させた事実も存在せず,ユニットシェルフのデザインが良品計画の出所を現すものとして周知であったとはいえない。
需要者は無印良品のユニットシェルフにつき一般的なメタルラックやスチールラックとしての抽象的な印象を抱いているにすぎない。
実用性が重視される商品の場合,細かい形態的特徴に対する需要者の関心は低いし,ユニットシェルフのデザインが商品の識別力を持つ部分として認識されていない


[地裁の判断]
地裁の判断地裁はどのように判断したのでしょうか。
良品計画ユニットシェルフが「同種商品と比較して特徴的なデザイン」であれば、顕著な特徴があるといえます。 しかし、ユニットシェルフを構成する要素が「不可避的な形態」「ありふれた形態」だとすれば、顕著な特徴のデザインとはいえないようにも思えます。

地裁は、上記@〜Eを有する無印良品のユニットシェルフを、顕著な特徴のデザインであると認めました。

良品計画ユニットシェルフは,棚を構成する各要素について,それぞれ内容が特定された形態(上記@〜D)が組み合わされ,かつ,これに付加する要素がない(上記E)ものであるから,多くの選択肢から選択されたデザインである。
良品計画ユニットシェルフは,このような形態であることにより特にシンプルですっきりしたという印象を与える外観を有するとの特徴を有するもので,全体的なまとまり感があると評されることもあったものであり,商品全体として,需要者に強い印象を与えるものといえる。
平成16年頃の時点において,良品計画ユニットシェルフのデザインは客観的に明らかに他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有していたと認めることが相当である。

カインズは,上記@〜Eのうちの各個別のデザインを取り上げ,それらがありふれたものであり,他の同種の商品と識別し得る特徴を有しない旨主張する。
しかし良品計画ユニットシェルフのデザインが他の同種の商品と識別し得る特徴を有するといえるか否かを検討する際は,上記@〜Eの形態を組み合わせた全体のデザインがありふれたものであるかを検討すべきである。
したがって,上記@〜Eのうちの各個別のデザインにありふれたものがあることを理由としてユニットシェルフ全体のデザインが商品等表示とならなくなるものではない。
ユニットシェルフが顕著な特徴を有するかは、上記@〜Eそれぞれが「不可避的な形態」「ありふれた形態」か否かではなく、組み合わせた全体が「不可避的な形態」「ありふれた形態」か否かで考えると判断しました。

また地裁は、このデザインは無印良品のものとして、需要者の間で周知であると判断しました。
良品計画は,ユニットシェルフを平成9年以降継続的に販売してきた。
商品の販売実績は,相当の台数及び額に及んでいた。
また,ユニットシェルフのデザインが一見して認識し得る状態で平成9年から全国の多数の「無印良品」の店舗において展示,販売され,それによって全国の店舗を訪れた顧客の目に触れた。
さらに,ユニットシェルフを掲載したカタログ,チラシ等による大規模な宣伝広告活動及びデザインが分かる写真を含む記事を掲載した多数の雑誌等の発行がされ,それらによって全国の一般消費者の目に触れたということができる。
良品計画ユニットシェルフは,「スチール棚セット」等のセットとして扱われ,カタログにおいても,そのようなセットとして,高さや幅が異なる複数の種類の商品の写真がデザインを一見して識別できる形で掲載されて宣伝され, また,店舗においてもそれらのセットとして販売されていたことがうかがえる。
そうすると,ユニットシェルフは,全体の外観に特徴を有する一連の商品として,デザインを一見して認識し得る形で長期間,相当大規模に宣伝等され,販売されてきたといえる。

そして,ユニットシェルフのような大きさを有する棚はこれを設置する室内においても目立つものであるところ,そのデザインは商品全体の外観に関わり,また,全体的なまとまり感があると評されることもあったようなものであることなどから,ユニットシェルフの購入者は,デザインにも着目してこれを購入したことがうかがわれる。
長期に渡る販売と宣伝により、需要者はユニットシェルフを「無印良品のデザインだ」と認識して購入したと判断しました。

以上のことから、地裁は良品計画が扱うユニットシェルフの形状が、不競法上の「商品等表示」に該当すると判断しました。
この他、「カインズのユニットシェルフは,良品計画のユニットシェルフと混同を生じさせるものである」ことが認められ、地裁はカインズの行為を不正競争と判断しました。
その結果、地裁はカインズに対し、類似するデザインのユニットシェルフの販売差し止めと、扱っていたユニットシェルフの廃棄を言い渡しました。


[弊所の見解]
従来、機能的な形状のみでできた工業製品のデザインは、不競法の「商品等表示」と認められないケースがほとんどでした。
しかし、この事件では特に装飾がない工業製品であるユニットシェルフが、「商品等表示」に該当すると判断されました。
この判断に至ったのは、上記@〜Eそれぞれが独立して「不可避的な形態」「ありふれた形態」か否かではなく、組み合わせた全体が「不可避的な形態」「ありふれた形態」か否かで考えると言うものです。
それに加えて「機能的な形状のみでできたシンプルなデザイン=無印良品」という認識が需要者に広まっていたことが大きいと思われます。
シンプルな工業製品が「商品等表示」と認められた、意外性のある判決です。

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