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不正競争防止法


ドラゴンソードキーホルダー事件

「形態の模倣」とは?
(東京地裁平成7年(ワ)11102号平成8年12月25日判決(認容)、
東京高裁平成8年(ネ)6162号平成10年2月26日判決(原判決取消、請求棄却))
形態の模倣

[修学旅行で定番のお土産が「形態の模倣」に?]
剣にドラゴンが巻き付いた金属製のキーホルダーを、「ドラゴンソード・キーホルダー」といいます。
観光地のお土産屋さんで見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。
特に、修学旅行の小中学生に人気があります。
そんなドラゴンソード・キーホルダーの形状が、第三者に許可なく真似されたとして、不競法に基づき製造・販売の差止めを求める訴訟が起こりました。
差止めが認められるためには、訴えられた側の扱うキーホルダーが、訴えた側のキーホルダーの「形態」を「模倣」したものに該当する必要があります。

[事件の経緯]
訴えを起こしたM社は、キーホルダーなど土産物の製造と販売を行う会社です。
M社はドラゴンソード・キーホルダーを、平成6年1月から製造・販売し、平成6年の販売総数は27万個以上になりました。
訴えられたG社は、キーホルダーなどを製造・販売する会社です。
平成6年8月末から、ドラゴンソード・キーホルダーを製造・販売していました。
M社は、G社の製造販売するキーホルダーのデザインが、自社のキーホルダーのデザインの模倣であるとして、不競法2条1項3号に基づき、キーホルダーの製造・販売の差止めを地裁に訴えました。
[M社の主張とG社の反論]
不競法2条1項3号は、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為」を不正競争としています。
M社の請求が認められるためには、G社のキーホルダーが、M社のキーホルダーの形態の模倣に該当しなければなりません。

M社は以下のように主張しました。
M社商品とG社商品の形態の差異は、G社商品がやや大きめであり、竜が双頭である外は、その形状はほぼ同一であり、需用者に与える印象も同一または類似している。
このようにM社商品とG社商品の形態が酷似していることと、M社商品がヒット商品となった後に、G社商品が市場で販売されるようになった事実から、G社が、M社商品のヒットに便乗してその形態を模倣してG社商品を製造したことは、経験則上明らかである。

G社はM社のキーホルダーの形態を模倣した、という主張です。
両者の商品を再度、表示します。
M社商品とG社商品の形態の差異は、G社商品がやや大きめであり、竜が双頭である外は、その形状はほぼ同一であり、需用者に与える印象も同一または類似している。
このようにM社商品とG社商品の形態が酷似していることと、M社商品がヒット商品となった後に、G社商品が市場で販売されるようになった事実から、G社が、M社商品のヒットに便乗してその形態を模倣してG社商品を製造したことは、経験則上明らかである。

G社はM社のキーホルダーの形態を模倣した、という主張です。
両者の商品を再度、表示します。
M社 G社
訴えたキーズファクトリーのタッチペン 訴えられたゲームテックのタッチペン

これに対し、G社は以下のように反論しました。
G社は、平成6年5月から、剣と竜を組み合せたキーホルダーを企画し、そのデザインを外部のデザイナーに依頼し、同年6月3日ころ、デザイン画の納入を受けて、試作の末、剣と竜を組み合せたキーホルダーを商品化することとし、G社商品を同年8月下旬ころから、卸業者に納入するようになった。
G社は、それ以前にM社商品を見たこともないし、また販売されていたことも全く知らない。
また、M社商品とG社商品は、竜と剣の題材が共通するだけで、G社商品が双頭の竜であることから明らかなように両商品の形態は酷似しておらず、およそデッドコピーとはいえない。
したがって、G社商品がM社商品の形態を模倣したものであるとの主張は失当である。
G社はM社のキーホルダーの形態を模倣していない、という主張です。 
[地裁の判断]
地裁は、まず不競法2条1項3号の「模倣」の意味を明確にしました。
法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。
既に存在する商品の形態とこれに依拠して作られた商品の形態とが完全に同一ではなく、両者の間に相違点があるとしても、その相違点が当該商品全体からすると微細であり、商品全体として観察すれば、両者の形態が実質的に同一と認められる場合には、不正競争に該当する。
形態を「模倣」したものには、完全に同一のものだけでなく、実質的に同一のものも含まれるということです。

その上で、両社のキーホルダーの形態を比較しました。

両社のキーホルダーの形態を比較しました

1)共通点。
(一) M社商品とG社商品は、本体部分の形態が、以下の点で共通している。
@全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形で表面側の十字の中心部分に宝石状にカットされた円い形状のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣に、竜が、洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側共に浮彫りされている形態の基本的構成、
A柄上端部分の竜の頭部は右上方から左斜め下方に向けて、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開けて、牙を見せており、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分の右側に左前足をかけ、胴体が洋剣の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回っている洋剣に巻きつく竜の具体的形態、
B金属的光沢を有する黒味を帯びた銀色という色彩

2)相違点
(二) 他方、M社商品とG社商品の各本体部分の形態は、以下の点で相違している。
@M社商品では、洋剣に巻きついているのが頭部が一個の通常の竜であり、表側から見て洋剣の刃先の左方に尾の先が表われているのに対し、G社商品では、胴体の両端に頭部のある双頭の竜であり、表側から見て洋剣の刃先の左方にもう一つの頭部がある点、
AM社商品では縦約6.8センチメートル、横最大幅は約2.7センチメートルであるのに対し、G社商品では縦約8センチメートル、横最大幅は約4センチメートルである点、
B鍔部にかけた竜の足の鍔部のつかみ方、竜の顔、背鰭、鱗の形状の詳細及び彫りの深さ、ガラス玉の色の点

3)結論
(三) 上記(一)に認定したM社商品とG社商品との全体の形態の共通点、とりわけ@ないしBのような本体部分の形態の同一点が、両商品の形態の主要部分にかかわることであるのに対し、
上記(二)に認定したM社商品とG社商品との本体部分の相違点のうち、@は竜の形態にかかわるものではあるが、本体部分の全体の形態の中では、印象が弱いこと、Aの大きさの違いもわずかなものであること、
Bは上記(一)に認定した共通部分の細部の相違点であることを考慮すれば、両者の形態は酷似しており、実質的に同一であるということができる。
こうして両社の形態は酷似していると判断しました。

4)依拠性
地裁はまた、G社のキーホルダーはM社のキーホルダーに依拠して作られたと判断しました。
G社商品が、M社商品の販売開始後8ヶ月以上経過して販売が開始されたものであり、その間にM社商品は約28万個販売されたものであり、M社と取引のある卸問屋ではヒット商品と認識していたものであることに加え、M社商品やG社商品のような土産物店には同業者が軒を並べて立地し、他店の取扱商品中顧客に人気があり売れ行きの良い商品が何であるかを認識し易く、卸問屋、製造業者も売れ行きの良い商品についての情報を得やすいものと推認できること、両社の商品は酷似しており、その程度はM社商品を見ないで製造したG社商品が偶然にM社商品に似たものとは到底考えられない程であり、G社商品はM社商品に依拠して作られたものであることが優に推認できる。
以上のことから、地裁は、G社商品はM社商品を模倣したと判断しました。


[高裁の判断]
その後、不正競争に該当すると判断されたG社は高裁に控訴しました。
その結果、高裁は地裁とは全く違う判決を下すこととなりました。

高裁は、不競法2条1項3号の「模倣」の意味を明確にしました。
不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、客観的には、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していることを要し、主観的には、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要するものである。

ここで、作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、
1)その相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、
2)当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえないものというべきである。
地裁と異なり、相違する程度によっては「実質的に同一」ではなく、模倣に該当しないことを強調しています。

そして高裁は、両社のキーホルダーの形態を比較しました。
比較を再度、掲載します。
両社のキーホルダーの形態を比較しました

龍の形態
M社商品は頭部が一個の通常の竜であるのに対し、G社商品は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であるという相違点が存するところ、G社商品の製造、販売時において、双頭の竜を表したキーホルダーが存在したことを認め得る的確な証拠はなく、また、双頭あるいは複数の頭を有する竜のデザイン自体がよく知られたものであることを認め得る証拠もないこと、M社商品、G社商品とも、基本的には、洋剣と竜のデザインを組み合わせたものであって、商品としての形態上、竜の具体的形態が占める比重は極めて高く、G社商品において洋剣の柄部分側と刃先側に表された竜の頭部が向き合っている形態は、需要者に強く印象づけられるものと推認されることからすると、G社商品における竜の具体的形態は、G社商品の全体的な形態の中にあって独自の形態的な特徴をもたらしているものと認められること、本体部分の大きさの違いもわずかであるとはいえず、表面部分の面積を対比しても、ほぼ1(M社商品)対2(G社商品)程度の違いがあり、量感的にも相当の違いがあることからすると、G社商品の形態がM社商品の形態に酷似しているとまでは認め難く、実質的に同一であるとは認められない。
G社のキーホルダーの竜が双頭である点及びM社の二倍の大きさである点から、地裁での「酷似」という判断が覆され、「実質的同一」には該当せず、不競法2条1項3号の「形態の模倣」の要件を満さないということです。
地裁の判決は取り消され、M社のキーホルダーの製造・販売の差止め請求は認められませんでした。
[弊所の見解]
両社のキーホルダーは、全体的に「似ている」印象を受けます。
しかし、単に「似ている」ことは不競法2条1項3号の「形態の模倣」ではなく、「実質的同一」と言えるまでに酷似していなければ「形態の模倣」に該当しないことが、この事件で明らかになりました。
これは、意匠法が意匠権と同一又は類似の範囲まで、他人の実施を排除できることと大きく異なっています。
不競法2条1項3号の「形態の模倣」の意義が争われ、意外な結末を迎えた判例です。

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