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八丁堀伝説


八丁堀伝説の2 「蚊を撃退できるの?」の巻


  1. 蚊が撃退できる?
    ポケットに入る程度の小型の筒です。
    電池を入れてスイッチを入れると「ピーーー」という甲高い音が鳴りつづけます。
    この音で蚊を追い払う、という考案でした。
    とはいっても考案の内容は「蚊」とは関係なく「音波発信機」というべきもので、簡単な電気回路で効率よく発信を続ける、というものでした。
    しかしそれだけでは商品としての意味はなく、「蚊を撃退します」という売り込みで数年間、安定して売れていました。
    ただし社員数人の卸売の会社だから、本当に蚊が逃げてゆくのかどうか、実験をした結果ではありませんでした。
  2. 撃退の原理は?
    とはいっても一応の理論性を持たせなければ商品としての信頼性がありません。
    そこで蚊の撃退理論として取扱い説明書には以下のような理由づけをおこなっていたようです。

    血を吸うのはメスの蚊だけである。
    そしてメスの蚊が血を吸うのは、産卵期の栄養を求めてのこと。
    メスの蚊は卵を抱いているうちは、オスの蚊を避ける習性がある。
    オスの蚊は特定の波長の音波を発するので、その音波に近い音波を発する本器の使用により、メスの蚊が寄ってこない

    ある購入者は次のような感想を語っています。
    「蚊にそんな習性があったとは知らなかった。オスの蚊が発する音波を調べて商品化するなんて、科学者はえらいな。すごいアイデア商品だなあ、と感心したものです。」
  3. 公取から「虚偽表示!」
    ところが誰が告げ口をしたのでしょう、公正取引委員会から会社に電話での問い合わせがきました。
    「蚊を撃退できる、という証明を出しなさい。出せないならば販売を中止しなさい!」と。
    その会社は他にはほとんど売れる商品がなく、この撃退器だけが経営の柱。
    その販売を中止する、ということはデパートなどの売り先から全商品を引き上げ、かつ外注しているメーカーへの支払は避けられない。
    そうなると倒産が目の前です。
    そこで社長から必死の思いで「なんとかなりませんか!」との問い合わせがあったのです。

  4. どんな回答ができるだろう
    実用新案や商標の出願の依頼は受けていたけれど、そんな問題を持ち込まれても・・・
    特に親しい生物学の先生がいるわけでもなし、たとえ引き受けてくれる大学があったとしても半年、1年の時間が必要だろうし、とても数か月で証拠や証明書を作るなんて不可能です。
    しかし何とかしてあげなければ・・・・。
    と、風呂につかっていてひらめきました。
    一体どんな気持ちで買うのだろう、というお客さんの気持ちに気が付いたのです。
    お客さんは本気で蚊を撃退できる、と信じて1000円程度の撃退器を買うのだろうか。
    そして蚊にさされたら「虚偽表示だ!」と怒り狂うだろうか。
    そうではないのでは? もっと気軽に、「アレッ、珍しいものが!」と感じて、いわば「ユーモア商品」と考えているのではないか、と。

  5. 公取への回答
    回答期限も迫るし他に方法がない、そこで社長と相談して公取へは次のような回答書を出しました。

    購入者はいわば「ユーモア商品」と受け取って購入しているのです。
    たとえばゴルフのコンペの景品とか、散歩の際の気休めとか。
    そんな商品に対して「医学的な証明をだせ!」と目くじらを立てるのはおとなげがないのでは?

    ゴルフの景品?

    なんとその回答を公取は受け入れてくれたのです。
    社長からは、「これで倒産しないですみました」、と大変感謝されたことは言うまでもありません。
    ただしこんな反論はいつも通用するとは限らないでしょう。
    その後に似たような商品で回収を命じられたケースもあるようです。
    本件は不満の申し出もほとんどなく、単価も安かった、といった多くの要素が助けてくれた一例です。

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