おもちゃの形は商品の目印になるか(たまごっち事件)

[レトロブームで注目されたアイテムと不正競争防止法]
 令和に入ってから、若者の間で平成レトロブームが起こりました。
 特に、液晶画面付きの小型ゲーム機・たまごっちは、今の時代にない可愛らしさを持った玩具として、脚光を浴びました。
 たまごっちは、不正競争防止法における重要な裁判の題材となったことで、有名です。
[訴訟に至るまでの経緯]
 不正競争防止法による訴えを起こしたのは、株式会社バンダイ(以下、バンダイ)です。
 バンダイは、主におもちゃの企画・製造等を行っています。
 バンダイは、平成8年10月10日より、キーホルダー型液晶ゲーム機「たまごっち」を販売しています。
 発売当初に爆発的なブームを起こし、その後も機能をアップデートさせたものを発売したり、アニメ化・映画化を行ったりと、人気の玩具シリーズとなっています。
 訴えを受けたのは、株式会社永光(以下、永光)です。
 平成9年4月上旬ころに、キーホルダー型液晶ゲーム機「ニュータマゴウォッチ」を輸入・販売し始めました。

[争われた論点と、両者の主張]
 この訴訟で争点となったのが、「たまごっち」の本体形状は需要者に広く認識された「商品等表示」に該当するか、です。
 「商品等表示」とは、需要者が商品を見つけるための目印を意味します。
 「たまごっち」と「ニュータマゴウォッチ」の本体をそれぞれ拡大して、玩具本体の形状を並べてみます。
| たまごっち | ニュータマゴ ウォッチ | 
|  |  | 
 条文上(不競法2条1項1号)は、玩具の本体の形が「商品等表示」に該当するかは、明確に書かれていません。
 バンダイは、「たまごっち」の本体形状は「商品等表示」に該当すると主張しました。
 従来、キーホルダーにつけられるような小型の扁平した卵型で液晶画面が組込まれた玩具は存在していなかった。
「たまごっち」は,その発売以来爆発的な人気を博し,一つの社会現象さえ引き起こしており,その特徴のある外形の写真などとともに,テレビ,新聞,推誌などで度々取り上げられてきている。 したがって,「たまごっち」の本体形状は,少なくとも「ニュータマゴウォッチ」が発売された平成9年4月上旬ころ以前に,抗具業者,直接の需要者である子供や少年少女はもちろんのこと,一般の社会人の間においても,バンダイの「商品等表示」として極めて広く知られるようになっている。
永光は、「たまごっち」の本体形状に似た玩具は他にも多くあるとして、反論しました。
キーホルダーにつけられるような小型で液晶画面が組み込まれているような玩具は以前より多数存在し,かつ,扁平した卵型のものも存在する。

[地裁は、「たまごっち」の本体形状は「商品等表示」である、と判断]
 地裁はどのように判断したのでしょうか。
 再度、両者の本体を確認します。
| たまごっち | ニュータマゴ ウォッチ | 
|  |  | 
地裁はまず、「たまごっち」の本体形状は、ゲーム機の形状として特徴的であると判断しました。
 「たまごっち」の本体部分の全体形状が全体に丸味を帯びた扁平の卵型をなしているという形態は、とりわけ印象の強い独自の形態というべきである。
 また、ゲーム機を対象とした先行意匠調査報告書において、ゲーム機ないしゲーム器の先行意匠としては、略方形のもの及びその辺又は角に丸味を帯びさせたものが多く、星型や略円形のものも存在するが、扁平の卵型をなしているものは存在しない。
 この点に関し,永光は,キーホルダーにつけられるような小型で液晶画面が組込まれている玩具は以前より多数存在し,そのなかには,「たまごっち」のような扁平した卵型のものも存在する旨主張するが,主張の証拠はなく,前記認定を左右しない。
次に地裁は、「たまごっち」の本体形状が需要者の間で有名であることを、判断しました。
「たまごっち」は、平成8年11月下旬の発売以来中高生などを中心に爆発的なヒット商品となり、全国的な品不足のために、各地の販売店で「たまごっち」を求める長蛇の行列ができたり、高額のプレミアム価格がついたり、類似品が氾濫するなどの社会現象を引き起こした。また、流行情報誌「日経トレンディ」の平成9年12月号の記事「97年ヒット商品ベスト30」において、「たまごっち」が平成9年のヒット商品の第1位に選ばれていることが認められる。
最後に地裁は、「たまごっち」の本体形状は「商品等表示」に該当する、と結論付けました。
 商品の形態は,特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し,かつ一定期間継続的・独占的に使用されたような場合には,商品の形態が,「商品等表示」に該当する場合があるというべきである。
 「たまごっち」の本体形状は、同種商品のなかで特別顕著性を有する。また「たまごっち」の本体形状は、平成8年11月の発売以来記全国で大量に販売され頻繁にメディアに取り上げられてきたため,一定期間継続的・独占的に使用されたといえる。 
 総合すれば、「たまごっち」の本体形状は,遅くとも「ニュータマゴウォッチ」が発売された平成9年4月5日以前の時点において、わが国のこの種商品の取引者・需要者の間において、バンダイの商品であることを示す表示として周知の状態になり、さらにその後も同様の状態にあるものと認めることができる。
 この他、「たまごっち」の本体形状と「ニュータマゴウォッチ」の本体形状は実質的に同じであること、及び商品名やパッケージデザインからも需要者が混同するおそれがあることを、地裁は明らかにしました。
 さらに、不正競争防止法とは別に意匠法でも、永光の侵害が認められました。
 地裁は永光に対し、2000万円の損害賠償を命じました。

[弊所の見解]
 今回は、「商品等表示」の解釈が問われた訴訟について解説いたしました。
 玩具の本体形状、つまり商品の形態そのものも、商品を見つけるための目印であると明確になった、重要な判決です。
以上
解説 弁理士 山口明希
