パロディモンタージュ写真事件

~他人の著作物はどこまで利用していいのか~

[ブログや動画を作成する時に湧く疑問]

 「ブログで分かりやすくするためにこの写真を入れたいけど、勝手に使って大丈夫かな?」
 「YouTubeに上げる動画にこのグラフを挿入したいけど、著作権の問題にならないかな?」
 このような疑問を持ったことはありませんでしょうか。


 確かに、他人の作った写真やグラフ(著作物)を使うと、著作権(複製権)の侵害となるのが原則です。 しかし、他人の著作物を「引用」することは侵害ではない、と著作権法にあります。

著作権法第32条(引用)
 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 では、具体的に認められる「引用」とは何でしょうか。
 条文だけでは分かりません。
 今回は、著作物の「引用」についての裁判例を紹介します。

[事件の経緯]

 著作物の「引用」が問われたのが、「パロディモンタージュ写真事件」という訴訟です。
 合成写真が、元の写真の著作権を侵害しているかが争われました。

 訴えを起こしたのは、白川義員(以下、白川氏)です。
 山岳写真家です。
 白川氏は、雪山でスキーをする人々を撮影した写真(以下、写真A)を創作しました。
 昭和42年1月、写真集『SKI’67第四集』に写真Aを掲載します。 その後、編集を加えた写真Aを昭和43年度用広告カレンダーに掲載しました

 訴えられたのは、マッド・アマノ(以下、アマノ氏)です。
 グラフィックデザイナーであり、パロディストです。
 アマノ氏は、カレンダーAに掲載された写真Aからモンタージュ写真(以下、モンタージュ写真B)を作成しました。
 具体的には、写真Aの左側部分を切除して白黒に編集し、右上に広告写真から複製した自動車スノータイヤの写真を貼り付けて、モンタージュ写真Bを作成しました。
 モンタージュ写真Bは、昭和45年1月に発行した自作の写真集「SOS」に掲載して発表され、他の雑誌でも掲載して発表されました。
昭和46年9月、白川氏はアマノ氏を著作権侵害で訴えました。

[東京高裁は著作権侵害でないと判断]
 東京高裁は、アマノ氏の作品は白川氏の著作権を侵害していない、と判断しました。
 まず東京高裁は、モンタージュ写真Bの作成で写真Aを使ったのは、必要なことだったと判断しました。

モンタージュ写真Bの作成は、その目的が写真Aを批判し世相を風刺することにあった。そのためその作成には写真Aの一部を引用することが必要であり、かつ、引用の仕方が美術上の表現形式として今日社会的に受けいれられているフォト・モンタージュの技法に従ったものとして、客観的に正当視されるものであった。

その上で、東京高裁はアマノ氏が写真Aを利用するのは、著作権法の引用の条文における「正当な範囲内」であると論じました。

 だから、他人の著作物の自由利用として許されるべきものと考えられ、引用にあたり写真Aの一部改変されたことも、モンタージュ写真B作成の目的からみて必要かつ妥当なものであったということができ、原著作者たる白川氏の受忍すべき限度を超えるものとは考えられない。したがって、アマノ氏の写真Aの利用は著作権法にいう「正当の範囲」を逸脱するものではない。

[しかし最高裁は著作権侵害と判断]
 白川氏は、最高裁に上告しました。
 最高裁は、東京高裁と違う判断を行いました。
 初めに最高裁は、「引用」として具体的に認められる条件を示しました。

 引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、
 ①引用する側の著作物(モンタージュ写真B)と、引用される側(写真A)の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、
 ②引用する側(モンタージュ写真B)が主、引用される側(写真A)が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきである。

 次に、上記の2つの条件のうち、「モンタージュ写真Bが主、写真Aが従の関係がある」に該当しないと判断しました。

 モンタージュ写真Bに取り込み利用されている写真A部分は、モンタージュ写真Bの表現形式上従たるものとして引用されているということはできない。
 だから、写真Aがモンタージュ写真B中に著作権法上の意味で「引用」されているということもできない。

 よって、著作権法で認められる「引用」に該当しないので、白川氏の著作権を侵害する、と結論付けました。
 訴訟はこの後昭和62年まで続き、和解(実質的に白川氏の勝訴)で終わりました。

[弊所の見解]
 この裁判では、認められる「引用」の一部である、「引用する側の著作物と、引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができる」と「引用する側が主、引用される側が従の関係があると認められる」が確立しました。
 著作権法で認められる「引用」の条件は、以下の7つにまとめられます。

1 引用しようとしている著作物が、世の中に既に出たものであること(著作物が公表されていること)
2 引用のしかたが常識的であること(公正な慣行に合致する)
3 報道、批評、研究といった、引用の必然性があること(引用の目的上正当な範囲内)
4 引用する側の著作物と、引用される側の著作物とを、明瞭に区別して認識することができること
5 引用する側が主、引用される側が従の関係があること
6 引用する著作物の出所(著作者の名前など)を書くこと
7 引用する著作物を勝手に変えないこと

他人の著作物を利用していいかは、上の条件全てに該当するかどうかで判断できます。
訴訟自体は昭和に行われましたが、現代でも通用する理論が確立された重要な裁判例です。

以上
解説 弁理士 山口明希

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