安藤ハザマが、大成建設を特許侵害で訴えた!(大成は13億円を払うのか?)

 安藤ハザマが「シールドトンネルの拡幅」の特許(4,782,704号)(以下「ハザマ特許」)で大成建設を訴えました。その賠償請求額がなんと13億5千万円! 

ハザマ特許は下図のように、2本のシールドトンネル間を連結する技術です。
(イラストは判決文などから引用して弊所で加工)

施行中完成断面

[どんな争いでしょう?]

訴えは、大成建設が「東京外かく環状道路大泉南工事」において、ハザマ特許を侵害した、だから13億5千円支払え!というものです。

マ特許の【請求項1】の記載は以下の通りです。

施行中のイメージ

発明のポイントは、延長セグメントとの接合部にあります。

2本のシールドトンネルを連結セグメント接合用凹部と、仮補填ケース

仮補填部材を取り外して
接合用凹部で延長セグメントを受ける

この完成状態の図を見ると素晴らしい発明ですが実はゼロからのスタートではないです。従来の技術を少しづつ改良してたどり着いたものでした。

だから特許庁から「似たものが公知だから拒絶する」という通知を受けて補正して特許になりました。
その「似たもの」とは、ハザマの過去の発明だったのです。

[従来の技術は?]
そこで拒絶理由通知を避ける記載に補正をして特許になりました。では公知だった技術とは?

公知だった技術
凹部36の中の充填剤37を切削する
(これもハザマの発明だった
今回のハザマの発明
充填材入りのケースを取り外す

どんな補正をしたか?というと、下記のような字句を追加したのです。

仮補填ケース中に充填材を充填した「仮補填部材」を着脱自在にして、拡幅セグメントの接合用凹部に取り付けたもの

ここで注目すべきことは、裁判で問題になるのですが、
「仮補填部材」は ①外の仮補填ケースと、②中の充填材の2部品から構成されている、ということです。


[大成の構造は?]
では、大成が施工した構造はどんなものでしょう。
大きな違いがないのですが、拡幅セグメントの接合用凹部にはめ込む「保護ピース」(ハザマの「仮補填部材」に相当)が鋼製の中空の三角柱だということです。

上蓋のスキンプレートを外した状態

そして三角柱の内部はまったくの空間ではなく、シールドジャッキの推力を後方へ伝達するための「縦リブ」がトンネル進行方向と平行に数枚、溶接してありますが、もちろん取り外しはできないです。

[両者の比較]
では両者のこの部分を比較してみましょう。

ハザマの仮補填部材大成の三角柱
充填材とケースは2つの別部品であるひとつの部品である
(上蓋のスキンプレートを外した状態)

[裁判所の判断は?]
以上の構造の違いから、大成のセグメントは、ハザマ特許の構成を備えていない、と判断しました。
なぜなら、大成の三角柱は一体構造であって、「仮填ケース」と「充填材」に相当する2部品で構成しているとは言えないからです。

この点について、ハザマは反論していました。
シールドジャッキ反力を支えるといった構造力学上、施工上の機能から見れば両者は同じだ、大成の三角柱の外部は「仮補填ケース」に相当し、縦リブは「充填材」に相当するのだから、と。
しかしその反論も、「そんな記載は明細書には示唆もない。示唆もない条件を前提とした解釈は相当ではない」と却下されてしまいました。

[では均等侵害は?]
特許請求の範囲の記載と、訴えられた対象とが一部異なっていたとしても、同じ技術的範囲内にあり、実質的同一であるものと評価しようとする理論、が「均等論」と呼ばれています。
しかし権利者が「均等だ」「均等だ」と言って無限に範囲を拡大できるものではなく、当然にその限界があります。

その限界の一つが補正で限定した構造、要件です。
審査の段階で「大福だけ」と限定して特許された、それなのに権利になったら「いや饅頭も俺の権利だ」という主張は認められないのは当然です。
本件では上記したように「ケース」の中に「充填材」を充填して接合用凹部に仮置きしておく構造に補正して、それに限定したからこそ特許になりました。

裁判所は、「これを見れば、上記の構造『以外の具体的構成』については、意識的に除外したもの認めるのが相当であり、均等侵害は成立しない」と判断しました。

[結論]
こうして被告の大成は、13億5千万円を支払わずに済んだのでした。
ご自分の財布が痛むわけではないだろうけれど、関係者もホッとされたことでしょう。