「展示会でびっくり!」

  • 会社へ帰れない!
    ある夕方、深刻な顔をしてA社の開発部の5名ほどの方が訪ねてきました。
    リーダーが言いました。「会社に帰れないんです・・・」
    ちょっと待ってくださいよ。
    会社へ帰るとか、帰れないとか、特許事務所となんの関係が?

なんだあれは?
実はこの5人の方はあるプロジェクトのメンバーでした。
新たな装置を開発するために選ばれた、工学博士を含むチームが10か月ほど研究を重ねてきたのです。
やっと完成したちょうどその時期に大きな展示場で、関連する業界の展示会が開かれました。
ライバル会社のレベルはどんなものだろう、と自信に満ちて広い会場に乗り込んだのです。
一回りして、ああこんなものね。と一服しようとして、おや? と目に留まった装置がありました。
近寄ってみるとチームの開発した装置と似ているではないですか。
ま、まさか! と全員で質問をしてみると、なんとほぼ同じ構造です。
焦る気持ちを押させて聞きました。
「特許は出願してあるのですか?」
すると答えは「もちろん、とっくに出願済みですよ。」!!!

  • 1億円が消滅か?
    開発にもいろいろあります。
    狭い工作室の卓上で開発できるレベルのものもあれば、屋外で大規模に繰り返して実験を行って完成させるレベルのものもあります。
    そのチームのテーマは後者でした。
    大きな装置をなんどか組み立てては解体する、という実験を繰り返したのです。
    ですから社員の給与も入れれば1億円に近い投資だったそうです。
    その完成品が他社の特許権で抑えられたら、無に帰すかもしれない、ということです。
    今さら会社に帰って、「それだけ投資したけれど、生産はできません。」とは報告できない・・それが会社に帰れない、という理由でした。
    会社にそれだけの損害を与えたとなれば、左遷か、悪くすればクビに・・と心配は膨らんできます。
    思いあまって、特許のことなら事務所へ、ということになったのでした。

ではどうするか?
「帰れない」と言われて、特許事務所としては何から手を付けるか? と考えました。
そうか、ライバルメーカーが特許出願をしている、とのこと。
ではその内容を調べてみよう。対策はそれからだ。
そこでこういいました。
「今日はこのまま帰ってください。展示会での結果は上司には黙っていましょう。明日中には対策を考えておきますから。」
しかたなく不安そうに帰えられましたが、こちらでも名案があるわけではなし、ともかく早速、ライバルメーカーの名前と発明のキーワードで検索してみました。
すると割合簡単に、「これだな!」という公開公報が見つかったのです。
(「公開公報」とは出願して1年半で発明を公開する書類で、特許になっているわけではありません。)

さあ、公開公報が見つかったけれど、これを、吉とみるか、凶とみるか? 考えところです。

  • 公報を読んで
    そこで公報を読んでみると、昨日聞いた装置とほぼ同じです。
    しかしあえて言えば多少の問題点があるのでは? と気が付きました。
    最後の調整手段がこれでよいのか? という素人のレベルなのですが。
    翌日の午後に、昨日の全員が事務所へ見えました。
    心配でたまらなかったようです。
    そこでまず公報を見せました。
    全員が愕然とした表情です。
    しかし、そこで冷静になってもらってから聞きました。
    この最後の調整手段に問題はないですか? 水分が多すぎた場合に作動が困難なのでは? そこを改良してみたらどうでしょう?
    急に全員が生き返ったようにしゃべり出しました。
    そしてたちまちいくつかの改良案が出てきました。
    それを特許出願しましょう!
    ライバルの出願を知っていた、しかし問題があった、その問題を解決したのがこの発明だ、という書き方で明細書を作れば特許になりますよ。
    それだけではない、上司にも同じようにライバルの問題まで解決した技術を完成した、と報告すれば左遷どころか栄転でしょう、と。
    皆さん、心からの笑顔でお帰りになりました。

その前に一言、忠告しました。
新製品の開発には着手前と開発中に特許調査をしましょうね、調査なら弊所でどうぞ、と。

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