ときめきメモリアル事件
~ゲームのストーリーと著作権~
[ゲームの歴史に残る、著作権法の訴訟]
テレビゲームからスマホゲームまで、たくさんのゲームソフトが人気を博しています。
ゲーム文化が興隆し始めた1990年代、難しいゲームをクリアするためのツールが、著作権法に触れるとして訴訟になりました。
今回は、ゲームソフトに関連する訴訟のお話です。
[訴訟に至るまでの経緯]
訴えたのは、コナミ株式会社(以下、コナミ)です。
ゲームソフトの制作を行う企業です。
平成6年5月、コンピュータ用ゲームソフト『ときめきメモリアル』を発売しました。
ゲームの内容は、高校の男子生徒である主人公が、憧れの女子生徒から愛の告白を受けるため、勉強や行事などに励む、というものです。
勉強や行事などで努力した記録は、パラメータと呼ばれるデータとして蓄積され、パラメータの数値に応じて、憧れの女子生徒から告白されるかが決まります。
憧れの女子生徒から告白を受ける(クリアする)のが、非常に難しいゲームとして知られました。
訴えられたのは、スペックコンピュータ株式会社(以下、スペックコンピュータ)です。
平成7年12月頃から、『ときめきメモリアル』のプログラムを改変できるメモリカード『X―TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル』(以下、『スペシャル』)を販売するようになりました。
プレイヤーが『スペシャル』を使用すると、パラメータの数値を変えることができます。
数値を変えることによって、勉強や行事などで努力しなくても憧れの女子生徒から愛の告白を受けられたり、ゲーム開始当初からは登場しない女子生徒が登場したりと、プレイヤーに有利な展開をもたらします。
[争われた論点]
この訴訟で問題となったのが、以下の2点です。
- (1)スペックコンピュータが販売した『スペシャル』により、『ときめきメモリアル』のストーリーを変えることは、コナミの意に反する改変に当たるか(同一性保持権を侵害するか)
- (2)誰が、コナミの意に反する改変を行ったか(同一性保持権を侵害したか)
しかし今回の場合、スペックコンピュータが販売した『スペシャル』は、『ときめきメモリアル』のソフトウェア自体を変えるものではありません。あくまでソフトウェアの一部のデータを変えたに過ぎません。
そのため、(1)「スペックコンピュータが販売した『スペシャル』により、『ときめきメモリアル』のストーリーを変えることは、コナミの意に反する改変に当たるか」が問題となります。
また、コナミの意に反する改変に該当したとしても、スペックコンピュータは『スペシャル』を販売しただけであり、実際に『ときめきメモリアル』の内容を改変したのはプレイヤーです。 そのため、(2)「誰が、コナミの意に反する改変を行ったか」が問題となります。
[最高裁の判断]
- (1)スペックコンピュータが販売した『スペシャル』により、『ときめきメモリアル』のストーリーを変えることは、コナミの意に反する改変に当たるか(同一性保持権を侵害するか)→コナミの意に反する改変に当たる
- (2)誰が、コナミの意に反する改変を行ったか(同一性保持権を侵害したか)→スペックコンピュータが、コナミの意に反する改変を行ったと言える
最高裁は上記(1)について、『スペシャル』は、主人公の人物像ごと改変した、つまりコナミの予定していた範囲を超えて、ゲームソフトを変えてしまった、と結論を出しました。
メモリーカード『スペシャル』の使用は,ゲームソフト『ときめきメモリアル』を改変し,コナミの有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。 なぜならば,『ときめきメモリアル』におけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,メモリーカード『スペシャル』の使用によって,『ときめきメモリアル』において設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,『ときめきメモリアル』のストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。 また、最高裁は上記(2)について、「スペックコンピュータは,現実に『スペシャル』を使用する者がいることを予期してこれを流通に置いた」ため、スペックコンピュータがコナミの意に反する改変を行ったと結論を出しました。 |
また、最高裁は上記(2)について、「スペックコンピュータは,現実に『スペシャル』を使用する者がいることを予期してこれを流通に置いた」ため、スペックコンピュータがコナミの意に反する改変を行ったと結論を出しました。
『ときめきメモリアル』のプログラムを実際に改変したのはプレイヤーです。
しかし、改変の根源はスペックコンピュータであり、根源となる販売者が悪い、という意味です。
メモリーカード『スペシャル』は,その使用によって,『ときめきメモリアル』について同一性保持権を侵害するものであるところ,スペックコンピュータは,専ら『ときめきメモリアル』の改変のみを目的とする『スペシャル』を輸入,販売し,多数の者が現実に『スペシャル』を購入したものである。 そうである以上,スペックコンピュータは,現実に『スペシャル』を使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができる。 他方,『スペシャル』を購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると,『スペシャル』の使用により『ときめきメモリアル』の同一性保持権が侵害されたものということができ,スペックコンピュータの前記行為がなければ,『ときめきメモリアル』の同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。 |
最高裁はスペックコンピュータに、損害賠償を命じました。
[弊所の見解]
ストーリーの改変がソフトウェアの改変に当たるか、改変のためのツールを配っただけの人は著作者の権利を侵害するのか、それぞれ明らかになった訴訟です。
以上
解説 弁理士 山口明希